東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)88号 判決
審決取消事由の存否について判断する。
(原告主張の審決取消事由1について)
原告は、第二引用例に記載された技術は、切断個所を減少させるものではないから、審決が第二引用例に、「切断分離しようとする切断面にあらかじめ分割用スリツトを入れて切断個所を減少せしめる技術」が記載されているとしたのは誤りである旨主張する。
本願発明は、スリツトを設けることにより、コンデンサ素子ブロツクの切断分離の際に「切断個所を減少せしめ」ることを特徴とするものである(本願発明の明細書―――成立について争いのない甲第一号証の四―――の特許請求の範囲の項)と認められるところ、右「切断個所を減少せしめ」るとは、明細書の発明の詳細な説明の項(第六頁一四行目ないし第七頁八行目)に、「分割用スリツトを設けたマイカ板を使用しているため、後で分割切断する部分の長さが減少するのでプレスによる打抜の場合には打抜によるマイカのクラツクの発生が減少するし、打抜用の金型も構造が従来のものより簡単になる。また、ガラス被覆されたシルバードマイカコンデンサ素板を用いる場合には厚さの薄いダイヤモンド砥石又は鋸を使用するが、同じように分割切断をする部分の長さが従来の方法に較べて少くてよいので分割のための工数が極端に減少する」(第六頁一四行目ないし第七頁八行目)との記載があることにかんがみると、「切断すべき部分の長さを減少させる」ことであると認められる。
一方、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例に記載された技術は、印刷配線基板に、適当な間隔のつなぎ部分を残して、直線状のスリツト(3)を複数個設け、(別紙図面(二)参照)そのスリツトに沿つて折つて基板を分離するものであると認められる。しかして、右基板の分離は折つてなされるもので、その分離の態様は本願発明におけるように、プレスによる打抜、ダイヤモンド砥石や鋸による切断等、コンデンサ素板の分割とは異なるが、その分離は、本願発明におけると同じくなお切断(截断)と称し得るものであり、スリツトが存在することにより、切断(截断)すべき部分の長さが減少するものであると認められる。
そうすると、第二引用例には、分割用スリツトにより切断個所を減少させる技術が記載されているとした審決の認定に誤りはない。原告の主張は理由がない。
(審決取消事由2について)
原告は、審決が第二引用例のものの作用効果に関し、「切断面におけるクラツクの発生を減少させ、かつ切断が容易になるという作用効果を奏する」としたのは誤りである旨主張する。
しかしながら、前述のとおり、第二引用例のものは、適当な間隔のつなぎ部分を残してスリツトを複数個設けたものであり、そのスリツトにより截断部分の長さを減少させたものであるから、右のようなスリツトを設けた結果、それを設けない場合と比較して、截断部分の長さが減少した分だけ、截断が容易になり、かつ、クラツクの発生が減少することは、見やすい道理というべきである。
原告は、第二引用例のものは、つなぎ部分の切断が必要であるから切断工数を削減することはできず、切断分離の際、つなぎ部分にクラツクが発生すると主張するが、だからといつて、第二引用例に関し、前述した截断(切断)が容易になり、かつ、クラツクの発生が減少するという効果が否定されるわけではない。原告の主張は理由がない。
(審決取消事由3について)
原告は、本願発明は、マイカ板に所定大の分割用スリツトを設け、その分割用スリツトに対して直角方向にのみ切断することにより、縦、横の両方向に切断する従来の積層型シルバードマイカコンデンサの生産方法の欠点を解決したものであつて、格別の作用効果を奏するものである旨主張する。
しかしながら、本願発明の明細書(前掲甲第一号証の四)の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明における分割用スリツトは、単に「所定大」のものであれば足り、その寸法、形状、位置、方向等は任意のものであることが認められる。したがつて、本願発明は第1図及び第2図に示されるような縦方向に長い分割用スリツトを設け、これに対して直角方向にのみ切断する点において従来のものに比べて効果がすぐれているという原告の右主張は、その前提を欠くことになる。そして、本願発明にいう「切断個所の減少」が切断すべき部分の長さを減少させることであることは、前記1で述べたとおりであり、切断すべき部分の長さが減少する結果、その分だけ切断が容易になるとともに、クラツクの発生が減少することは当然のことであつて、その効果が第二引用例のものに比べて特別のものであるということはできない。
原告は、本願発明の積層型シルバードマイカコンデンサと第二引用例の印刷配線基板とでは技術分野を全く異にしていると主張するが、前者は回路素子であり、後者は回路素子の相互接続と保持のための部品であつて、両者の技術分野は極めて近縁の関係にあるといつて差支えないものであるから、原告の右主張は理由がない。
さらに、原告は、第二引用例のものは本願発明におけるような高精度の切断技術を必要とせず、クラツクの発生を防止するものではない旨主張するが、本願発明は積層マイカコンデンサの切断技術に関するものではないから原告の主張は理由がない。
右のとおりであり、本願発明は、第一引用例及び第二引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとした審決の判断に誤りはない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
マイカ板に所定大のコンデンサ素子分割用スリツトを設け、このマイカ板に複数個の銀電極を被着してシルバードマイカコンデンサ素板となし、これを適数枚積層し、加熱加圧結合してシルバードマイカコンデンサ素子ブロツクを形成し、切断分離の際に分割用スリツトにより切断個所を減少せしめたことを特徴とするシルバードマイカコンデンサの製造法。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
<省略>
別紙図面(二)
<省略>